日々の忙しさから離れ、心を落ち着かせたい時、日本庭園の散策は格別の安らぎを提供します。木々の囁きや水の流れる音と共に、不意に響く「ししおどし」の「カン!」という音は、特別な癒やしを与えてくれます。
この穏やかな環境で印象的な存在感を示す「ししおどし」には、どのような目的があるのでしょうか?その名前の由来や、特徴的な音を出すメカニズムも気になりますよね。
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ししおどしとは何か?
ししおどしとは、日本庭園に設置される、心地よい音を奏でる装置です。正しくは漢字で「鹿威し」と書きますが、間違って「獅子威し」「獅子脅し」と書かれることもあります。
特に日本庭園で見られる「添水(そうず)」とも呼ばれるこの装置は、竹筒、石、そして水の流れる部分から成り立ち、独自の仕組みで一定のリズムで音を鳴らします。
水が竹筒に溜まると、一定の量に達した時点で竹筒は上下に動き、お辞儀のような動作をします。この動作で内部の水が排出されると、竹筒は軽くなり元の位置に戻ります。この時、竹筒の先端が地面に設置された石に触れることで、心地よい音が生まれます。この音が、静けさの中で突然響くことで、庭園に特有のリズムと驚きをもたらすのです。
ししおどしの起源について
ししおどしは、日本の伝統的な庭園において興味深い歴史を持っています。特に、京都にある詩仙堂(しせんどう)は、ししおどしを初めて設置した場所として知られています。
江戸時代初期に建てられたこの詩仙堂は、武将であり文人でもあった石川丈山(いしかわじょうざん)が隠居するための寺院でした。自然豊かなこの寺院は、その美しい庭園で有名でしたが、その美しさの裏で、イノシシや鹿が庭に入り込む問題を抱えていました。これらの動物を庭から遠ざけるため、ししおどしを設置したと言われています。ししおどしの突然の音は、これらの野生動物を驚かせ、庭園を守る重要な役割を果たしていました。
このようにして詩仙堂の庭園で始まったししおどしは、やがて日本庭園の象徴的な要素として広く普及しました。その音は、単なる動物の威嚇から進化し、庭園の静かな雰囲気の中で独特な魅力を放つようになったのです。
ししおどし(鹿威し)の名称の由来
ししおどしは、もともと動物を追い払うために使われていた装置です。田んぼや田畑の近くで便利に使える水を利用する構造が特徴です。この装置は、カラスを撃退する「かかし」と同じように、しばしば「ししおどし」と総称されてきました。
「ししおどし」という名前には「しし」(獅子)が含まれていて、漢字では「鹿」と表記されます。これは、もともとこの装置が動物を対象にしたものだったためです。ここでの「しし(鹿)」は、鹿やイノシシなどの害獣を指しています。これらの動物は田畑を荒らす問題をもたらす一方で、貴重な食料源としても利用されていました。
そうした背景の中で、ししおどしは鹿やイノシシなどの害獣を威嚇し、遠ざけるために使用されるようになりました。この目的が「ししおどし」という名前の由来となっています。
ししおどしの実際の動物追い払い効果
ししおどしは一見、動物を追い払う手段として知られていますが、実際のところその効果はかなり限定的です。
動物は同じ音が繰り返されることによって、その音を「危険でない」と学習し、徐々に慣れてしまいます。特に、何度も聞いた音によって自分たちに実際の危害が及ばないと分かると、動物はその音を恐れなくなります。
音の大きさを増やすことで効果を高めようとする手段もありますが、これは庭園の静寂を損ね、ただの騒音になりかねません。また、動物が大きな音にも慣れてしまうと、再び効果は薄れてしまいます。
現代日本では、ししおどしの音を上回るような大きな音が日常的にあふれています。そのため、ししおどしの効果はごく一時的なものにとどまります。動物の侵入が問題となっている庭園では、ししおどしは一時的には効果があるかもしれませんが、長期的な対策としては別の方法を検討する必要がありそうです。
ししおどし:動物を寄せ付けない道具から癒やしの音源へ
ししおどし(鹿威し)はもともと、動物が田畑に近寄らないように設計された道具です。水が溜まり、定期的に音を出すこの特性は、始めは動物を威嚇する目的で使われていました。
しかし、時が経つにつれ、このユニークな「音」が人々に心地良く響くようになり、日本庭園での使用が増えました。このため、「添水(そうず)」という名も付けられるようになりました。
今日では、ししおどしの動物を追い払うという実用的な役割はそれほど大きくなく、主に美しい音を加えることが主な目的となっています。訪れる人々の心を癒す「ししおどし」は、日本庭園にとって特別な存在です。近くに日本庭園があれば、ぜひ足を運んで、ししおどしの美しい音に耳を傾けてみるのはいかがでしょうか?